ニューヨークのグリニッジ・ビレッジにある家の、現代的なラインと質感の家具(撮影:ウィリアム・ジェス・レアード)
スーチ・レディはあらゆる意味において多才な人物です。建築家、デザイナー、芸術家であり、ニューヨークに本拠を置くスタジオ「レディメード」の創設者でもあるレディは、この1年のうちにインドの高級織物アトリエ、エカヤ・バナラと協力して初の家具コレクションを発表し、ニューヨークの画廊サロン・デザインで開催されたインド工芸の展覧会を企画し、世界最大の色の図書館のインスタレーションを創り、コロンビア大学で建築学科の学生を教えただけでなく、時間を見つけては様々な住宅、ブティック、公共プロジェクトの設計をしてきました。絶え間ない実験がレディの作品の原動力ですが、本人はしばしばそれを「感情」という柔らかい言葉で表現します。
「概念的には、それらはつながっている」と20年前に自身のスタジオを設立したレディは言います。「自分が探求したい感情はどういうものか?顧客が感じたい気持ちはどういうものか?その感情を強化するため、環境をどのように利用できるか?」このやり方を設計に適用するのは難しいように思えるかもしれませんが、レディは長年、科学的な思考を用いることで実現してきています。芸術と美が人々の幸福にいかにプラスの影響を与えるかを探求する「神経美学」の原理を用い、レディは単に見映えがいいだけでなく、そこにいる人が心地よく感じる建築物を設計しています。レディはこれを「形は感情に従う」と呼びます。
レディの作品は多岐にわたりますが、その半分は高級住宅のプロジェクトです。顧客が、“最もプライベートな空間で望む雰囲気”を実現できるようにデザインするのです。この過程には、顧客が本当に探しているもの、つまり快適さをつくりだすため、顧客が「愛し、反応する」もののイメージを読み解くことが含まれます。
「包み込まれるような美しい感覚を呼び起こすため、顧客に本当に合ったものを設計する機会は、私にとって喜びだ。」とレディは説明します。「私はいつも住宅プロジェクトでは(顧客と)協力しあうと言っている。なぜなら、最終的にできあがるのは私たちのどちらも最初からは思い描いていたものではないからだ。」
レディが自ら認める「現代的な感性」と顧客の好み、背景、ライフスタイルのバランスをとることで、その人に応じた解決策が導き出されます。レディがつくる住宅はその顧客と同じく、美的に多様なのです。
ニューヨークの現代美術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)の別荘の六角形の増築部分(撮影:アショク・シンハ)a
レディは現代美術家、艾未未(アイ・ウェイウェイ)のニューヨーク州北部にある別荘のために2000平方フィート(約186平方メートル)の直線的な増築部分を設計しました。断面は六角形、使用した素材はミニマル。2つのゲスト(客用)ウィングを新設し、両端にガラス貼りのポーチをつくりました。片側に沿って戦略的に配置された大きな窓からは農場の景色を眺められ、中央のリビングに配置された美術作品は、艾未未が厳選したアンティーク家具と共に展示されています。
カリフォルニア州ビバリーヒルズでは、レディは角張った家の内装を柔らかく落ち着いた家族の住まいに変えました。自然光が一日のうちに様々な部屋やオブジェを照らすことによって生まれるシーンの可能性に着目して設計しました。豪華で現代的な家具とカーペットやラグを統合し、床から天井までガラスに囲まれていても心地よくくつろげる環境をつくり出しました。
レディはこのビバリーヒルズの家の内外で、光の力を利用した(撮影:イェ・リン・モク)
俳優として活躍するニューヨークの俳優ペアの顧客は、最も重要なリクエストとして「台本を読むための巨大なテーブル、プロジェクター用のスクリーン、紙の馬の大きな彫刻」を挙げた、とレディは回想します。レディは、そのリクエストを機能的、美的に取り入れた専用のスペースをつくるとともに、光と空気に満たされ、俳優活動にインスピレーションを与える環境を整えました。
レディ自身にとっても、仕事と生活の明確な境界は存在しませんし、それを望んでもいません。レディはこの冬を、彼女の姉妹の家を建設しているインドで過ごしました。姉妹からは屋根付きの中庭と宗教的な象徴性を持つ幾何学的デザインの曼荼羅のイメージを求められました。そこでレディは、中庭を覆う錬鉄作品の制作を依頼し、設置しました。それは、1日に一度、玄関に複雑で完璧な影を落とすように設計されています。
「同じ情熱を共有する誰かと対話をするなかで、魔法のような瞬間が生まれる。」とレディは説明します。「多くの建築家は、住宅の仕事において、顧客との深い対話は好きではないと言うだろう。しかし、私はそうした個人的なつながりに強く惹かれる。今の世の中、どこも似たような体験が多くなっているが、自分の家だけはその人の表現を本当に反映できる唯一の場所である。」
スーチ・レディ「私たちの身体はいつも家の中心だ」(撮影:ヘザー・ハザン)
レディの他の創造的な実践と同様に、レディは住宅の設計を実験の好機とみています。「私たちの身体はいつも家の中心なので、住宅の仕事に取り組む時は、常に神経美学について考えている。」とレディは説明します。「私は空間の光の質について考える。光の色について考える。中と外の移り変わりについて考える。部屋によって雰囲気が大きく異なる場合でも、その間の移行がスムーズで、そして驚きや発見があるようにしている。」建築から芸術、そしてガラス製品のような細部に至るまで、これらの住宅の設計は「心身一体的な環境を作り出す素晴らしい機会」だとレディは言います。「まるで誰かのために繭をつくるようなものだ。本当に美しい繭を。」
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