アダム・チャーラップ・ハイマンのマンハッタンの家を飾る歴史的タペストリー(撮影スティーブン・ケント・ジョンソン)
タペストリーが再び私たちの家の壁を彩り始めています。いくつもの話題の展覧会で取り上げられ、洗練された住まいのインテリアとして人気を集めるなか、アンティークから現代作まで、織物の壁掛けが静かに、しかし確かな存在感をもって再注目されています。今年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やマサチューセッツ州のクラーク美術館で開かれた織物美術の大型展覧会でタペストリーを含むテキスタイルアートの大規模な展示が開催されました。インテリアデザイナーも美術界からヒントを得て、タペストリーを邸宅や住宅設計の核として取り入れ始めています。
「タペストリーは空間に奥行きを生み出してくれます。まるで鏡のように、視覚的なトリックを使って、部屋が実際よりも広く、格調高く感じられるようになるのです」とロサンゼルスとニューヨークを拠点とする建築・デザイン会社チャーラップ・ハイマン&ヘレロ(CHH)の共同代表アダム・チャーラップ・ハイマンは説明します。
CHHのデザインにタペストリーはよく使われ、その1つがマンハッタンにあるチャーラップ・ハイマン自身の折衷的なデザインの住居にある大型の楽園のような情景を描いたものです。「タペストリーは壁に掛ける一般的なものとは異なる。なぜだかまるで環境の自然な一部であるかのように感じられる」と同氏は言います。「産地、色彩、製作方法などとてつもない多様性がある。私のお気に入りは、17~18世紀のオービュッソン(フランス)やフランドル地方(ベルギー)で作られたものだ」
「ワン・プロスペクト・パーク・ウェスト」のワークステッドがデザインしたロビーでは、アンティークのタペストリーが対照をなしている(撮影:マシュー・ウィリアムズ)
昔から、織り手はその時代の出来事、宗教的または神話的な情景、想像上の田園生活をタペストリーの形で描いてきました。中世には、特にヨーロッパで生産がピークに達し、大型の作品がフランス、ベルギー、オランダで王族や貴族の城や宮殿のために作られました。緻密な職人技と絹など上質な素材が手に入ったことが相まって、タペストリーは絵画が花開いたルネッサンス期にも繁栄し続けました。絵画よりも大きな面積を覆うことができるタペストリーは、空間に圧倒的な印象を与えるだけでなく、同時に壁を保護する効果もありました。
現在でも、タペストリーはヨーロッパ各地の名だたる宮殿を彩っています。たとえば、フォンテーヌブロー宮殿、ヴィラ・メディチ、ハンプトン・コート宮殿、クイリナーレ宮殿など。その多くは今や美術館の所蔵品として、一般公開されています。なかでも名高いのがユニコーン(一角獣)狩りを描いた有名シリーズ「ユニコーン・タペストリーズ」(1495-1505年)。フランス貴族の邸宅を飾っていたこの「ユニコーン狩り」を描いた連作は、1938年の開館以来、ニューヨークのメット・クロイスターズに展示され続けています。
20世紀に入ると、ジョアン・ミロ、アニ・アルバース、ソニア・ドローネーらが、この古典的なメディアに抽象的で実験的な表現を持ち込み、タペストリーの可能性を大きく押し広げました。現代では、ジェフリー・ギブソン、ジュリア・ブランド、エル・アナツイといったアーティストたちがその系譜を引き継ぎ、世界各地の先住文化に根ざした織物表現を参照しながら、異素材や独創的なテクスチャー、造形へと挑戦しています。
かつては「工芸」として美術界から見過ごされることもあったタペストリー。しかし今では、その芸術性が再評価され、堂々たるアートとして愛され、収集される存在となっているのです。
ニナ・リッチフィールドは、サッシー・カザレット作の抽象的なタペストリーをこのノッティングヒルのインテリアに選びました(撮影:アストリッド・テンプリエ)
そして今、インテリアにタペストリーを取り入れる人も増えています。壁の装飾として、タペストリーは絵画より柔らかくて暖かい雰囲気を作りますが、室内のスタイルを補完する柔軟性もあります。タペストリーの手触りと触覚は室内環境にうまく調和し、さまざまな大きさがあるため、空間にぴったり寄り添う演出が可能です。
ロンドンのノッティングヒルで最近完成したプロジェクトでは、インテリアデザイナーのニナ・リッチフィールドが現代美術家サッシー・カザレットの抽象的なタペストリーをリビングの壁に掲げました。ブラジル生まれの同氏は「このタペストリーを念頭に置いて部屋をデザインした」と言います。室内の他の要素が比較的ニュートラルな分、壁に大きな作品を配することで温かみと彩りを加えたかったといいます。ロンドンの画廊トリスタン・ホアーで購入したカザレットのタペストリーは深みのある赤と琥珀色を部屋に取り入れ、遊び心のある赤と緑も配されています。「あのタペストリーは素晴らしく魅惑的で、まさに、この部屋の主役です」とリッチフィールドは述べました。
ニューヨークを本拠とする建築・デザインスタジオのワークステッドはニューヨークの2つのインテリア作品で歴史的なタペストリーに目を向けました。ブルックリンのマンション開発「プロスペクト・パーク・ウェスト」では印象的な黄色のロビーが、深い緑色の欧州の風景のアンティーク・タペストリーで引き立っています。ハドソン・バレーの「ツイン・ブリッジズ・ハウス」では額縁入りの色あせた19世紀のタペストリーが緑豊かな風景を描き、豊かな模様のリビングに落ち着きと趣を添えています。「タペストリーは歴史的な芸術性を各プロジェクトに加えてくれる」とワークステッドのパートナー兼クリエーティブ・ディレクターのライアン・マホニーは述べました。
ハドソン・バレーの「ツイン・ブリッジズ・ハウス」のリビングにある額縁入りの19世紀のタペストリー(撮影:マシュー・ウィリアムズ)
では、どのように自宅にタペストリーを取り入れればいいのでしょうか? 多くの人にとって、その鍵は「コントラスト」にあります。リッチフィールドはノッティングヒルの家にあえて現代的で抽象的、ミニマリズムのタペストリーを選びました。「それは私のデザインが通常とても伝統的だからです」と同氏は言います。しかし、現代的な織物が伝統的なインテリアを引き立てられるように、その逆も可能です。「最近では、非常に現代的なインテリアにとても古いタペストリーを取り入れることが流行している」と同氏は付け加えます。「現代的なインテリアはかなり寒々しく、面白みがない場合もある。そこにタペストリーを加えると、一気に温かみが生まれる」
ワークステッドは古いものと新しいものを交わらせる手法を「ワン・プロスペクト・パーク・ウェスト」で採用しました。マホニーは「タペストリーが、モダンな空間に対するカウンターポイントになっている」と言います。また、細部まで描き込まれた歴史的なタペストリーは、空間に豊かさを重ねていく“マキシマリズム”の世界にもぴったりです。「タペストリーの繊細な表現は、素材や柄を重ねていくデザインの土台になります」とマホニーは言います。どんなスタイルを選んでも、タペストリーは室内にニュアンスや魂をもたらすことができます。マホニーが言うように「タペストリーの柔らかく質感のある布が、インテリアに深みを加え、物語を紡いでくれるのです。」
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