
Tulum, Mexico | Riviera Maya Sotheby’s International Realty
世界中に数多く存在する個性的な邸宅のなかでも、真に“生きた彫刻”と呼べる家はごくわずかです。建築というより芸術に近いこれらの邸宅は、形や素材、視覚言語において純粋さを有しています。偉大な彫刻や実験的パビリオンのように、空間を行き来する人々に感情を呼び起こす“仕掛け”をもちながら、抽象的な作品とは異なり、そこに暮らすために設計されているのです。最も優れたものは、機能性と造形美を完璧なバランスで両立させているのです。
テームズ&ハドソン社から「Iconic House」シリーズを出版する著者ドミニク・ブラッドベリーは、「住宅デザインにダイナミックで表現豊か、かつ彫刻的な新しいアプローチを意図的に切り開いた建築家たちがいる」と語ります。「Iconic American House」に収録された代表例が、コロラド州のチャールズ・ディートンによる〈Sculptured House〉(1965年)や、ニューヨーク州サイモン・ウンガーズによる〈T-House〉1992年)。いずれもその造形と構造の複雑さゆえ、完成までに数十年を要したといいます。
一方、アーティストが意識的にアート作品として手がけた住宅もあります。ターナー賞受賞の英国人アーティスト、グレイソン・ペリーがFATアーキテクチャーとともに設計した〈A House for Essex〉(2014年)はその好例。レンタル可能なこの邸宅は「ペリー自身の絵画やタペストリーに囲まれ、まさに“アートに住む”体験ができる特別な機会」だとブラッドベリーは語っています。

Wilson, Wyoming | Jackson Hole Sotheby’s International Realty
過去に建てられたこれら“唯一無二”の邸宅の多くは現在、美術館としてのみ残っていますが、「生きた彫刻」というタグを掲げる物件が、今なお市場に登場しています。
ワイオミング州にある建築家ウォレス・カニンガム設計の〈ザ・リバーハウス〉は、川や小川の景観に溶け込むように低く佇む邸宅です。2023年に完成したこの建物は、外観だけ見ると浅くアーチを描く屋根と床から天井までの大きなガラス壁が特徴で、まるでパブリック・アート・ギャラリーのよう。しかし内部には石造りの暖炉や木材の造作が配され、豊かな自然光と周囲の景観を取り込む心地よい空間が広がっています。
一方、対照的なのが2016年に完成したロードアイランド州の邸宅Brutaliste Sur Mer〉です。遠景からの印象を意識して設計され、コンクリートの平面がルービックキューブのように組み合わさった外観は、まさに“コースタル・ブルータリズム”の象徴。そのインテリアはチーク材の壁や、木材で仕上げたドレッシングルーム、6席のホームシアターなどオーダーメイドのディテールで温かみを加えています。高台に位置するため、サコネット海峡を一望できる比類なき眺望も魅力です。

Little Compton, Rhode Island | Mott & Chase Sotheby’s International Realty
ブラッドベリー氏は、このように大胆な邸宅を実現できるのは、ある種の特別な建築家だと考えています。「『アイコニック・ハウス』シリーズを通じて、私たちは革新的で実験的な建築家たちを多く取り上げてきました。彼らは新しい構造や発想を積極的に探求することを好むのです」と彼はいいます。こうした存在は、おそらくどの世代にも現れるのでしょう。
そのひとりが、1970年代に活躍したフランスの建築家サバン・クエル。彼がコルシカ島に建てた邸宅は、地元の素材を大胆かつ素朴に使った造形が印象的です。いくつものスプリットレベルに広がる空間は、水辺の花崗岩から直接削り出された中央階段を核にしています。より未来的な“彫刻の中に暮らす”という発想の例は、メキシコ・トゥルムのジャングルにも見られます。自然との調和を意識して有機的なフォルムで設計された4戸の高級コンドミニアム が、自然と調和するように設計されました。

Bonifacio, Corsica | Corsica Sotheby’s International Realty
彫刻的な邸宅に暮らすには、そのビジョンに対する強いコミットメントが必要です。コロラド州にあるディートンの楕円形の山頂邸宅のような極端な例では、建築家自身が住まいながら試作品として新しいアイデアを試すこともしばしばです。また、芸術的な感性を持つクライアントと建築家が緊密にコラボレーションするときにも成功は生まれます。
ブラッドベリー氏が次回刊行する北欧特集の書籍に収録予定の住宅の中には、アイスランドの〈アーティスト・ハウス〉(2021/Studio Bua設計)も含まれています。廃墟となっていた農場の付属建物を再生したこの住まいは、既存の粗いコンクリート基壇の上に切妻屋根の木造ボリュームを載せることで、古いものと新しいものを融合させています。より“暮らしやすい”アート主導の邸宅を探すなら、温かみのある素材や自然の要素、あるいは住まい手の個性を受け入れる柔軟性を備えた場所に目を向けるのもよいかもしれません。





















